あたらしいまちのブログ

あたらしいまちの交換日記

帰り道

帰りが随分と遅くなった。乗れた電車は結局最終で、駅を出て駐輪場まで歩くと、人影はほとんどない。

ロックを外して、自転車にまたがった。自宅のマンションまでは、住宅街の中の歩道もない道を、ひたすらまっすぐ行く。自転車なら十分もかからない。

最初の短い下り坂で少し勢いをつけて、ゆっくり漕いでいく。ぽつん、ぽつんと立つ街灯と、通り過ぎる家々の僅かな窓明りが道を照らしている。すれ違う人影はなかった。


静かだ、と思ったところで、ふと、自分の前にもう一台自転車がいることに気づいた。こちらのライトにはぎりぎり入らない、その少し前を、同じ速さで走っている。相手はライトをつけておらず、それで気づかなかったのだろう。壊れているのだろうか。

危ないと思い、あまり近づきたくはなかったので、少し漕ぐスピードを落とした。だが、相手との距離は変わらなかった。こちらのほんの少し前を、変わらぬ距離で漕いでいる。音はしない。


ひたすらまっすぐ進んだ道の、公園がある十字路で左に曲がるとマンションの前の通りだ。その十字路を、相手は左にすっと曲がった。自分も同じように曲がった。

自転車のライト、道の端の街灯、その灯りに入らない隙間を通り、自分の少し前を進んでいく。

相手がマンションの駐車場に止めて、離れてから、自分も駐車場に止める。駐車場からつながる裏口の階段を上っていく足音を聞きながら、自分も上がった。自宅は二階の角部屋だ。

相手の足音が、二階を通り過ぎて上がっていくのを聞きながら、鞄から鍵を取り出し、ドアの前に立った。

鍵穴に差し込む時に、一つ上から同じように、かちゃりと音がするのを聞いた。中に入り、鍵を閉め、チェーンをかけた。


上の部屋は、今は誰も住んでいないはずだった。

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